｢Fの演奏はドラマティック過ぎる」

「Kは外面だけを磨くことに腐心し、曲の本質に遠く及ばない」

「Juはしかつめらしく、のびやかさに欠ける」

「Sは無機的で、批判の対象にもならない」

「無能なBは何もやらず、オーケストラの自発性に任せたお陰で、名演が誕生した」等々…。

高名な指揮者たちのブルックナー演奏が、概ねこういった表現によって、完膚無きまでに扱き下ろされています。

ブルックナーを聴き始めた頃、この批評家の文章がやたら目につきました。

そのため、嘗て我が家のLP棚の一角には、クナッパーツブッシュとシューリヒトのディスクが鎮座し、僅かに片隅にフルトヴェングラーの7･8･9番と、カラヤンの8番が立てかけられているくらい…。

でも私がしばしば取り出したディスクは、専らこちらの方でした。

フルトヴェングラーの演奏からは、大自然の雄大さと、ヒトの純粋な悲しみが感じられました。

ただ、15年程前に不覚にもLPを全て処分した現在、この批評家が絶賛したディスクは、我が家には一枚もありません。

冒頭で虚仮にされた指揮者たちに加えて、あとはギュンター･ヴァントのものが大勢を占めています。

最近その棚に、ヨッフム/ドレスデン･シュターツカペレの全集が加わりました。

その中の第4番を聴いて、目から鱗、随所にこの曲の美しさを再発見することができました。

私にとってのヨッフムの演奏は、曲を隅々まで熟知した名ガイドによる、つぼを心得た案内に譬えられそうです。

これまで幾つかの演奏で馴染んできたこの曲に、こんなに素晴らしい瞬間があったのかと、何度も「ハッ」としたものです。

とりわけ2楽章！

この楽章は、“ドイツの深い森を逍遙する”と譬えられているようですが、思わずため息が洩れるような美しさを、何度も体験しました。

SKDの弦の美しさは、よく“いぶし銀(人によっては木質感)のような”と称えられていますが、この演奏での響きの美しさも特筆ものです。

緩急強弱も含め、細部に至るまで神経の行き届いた、一糸乱れぬ演奏でした。

そんな特長を、逆に｢大らかさがなく、ブルックナーに相応しくない｣と感じられる方もいらっしゃるのでしょうが…。

以前にヨッフムのブルックナー演奏に対し、「恣意的」とか「ちまちましている」といった類の評価がなされていたような、そんな記憶があります…

確かに“恣意的”な演奏かもしれませんが、私には曲の隅々にまで生き届いた明晰さは素晴らしいと思えるし、そのお蔭で、この曲が一層好きになりました。