当時このオケには学生会員という特典があって、格安の価格でチケットが入手できました。
価格は忘れましたが、「LP一枚(新譜で2000円程度)を買うお金があれば、京響のコンサートが3回聴ける」、そんな認識だったことを覚えています。
学生にとっていかに恵まれた環境だったか、お分かり頂けるでしょう。というか、レコードが贅沢品だったのですね。
当日の他の曲目は全く記憶にありませんが、メインのシベリウスの印象は、いまだに鮮明に記憶しています。
第1楽章第1主題が木管で奏された途端、会場の熱気が瞬時に北欧の清涼な空気に変わった事。
第2楽章冒頭の、ティンパニーの連打と低弦によるピッチカートにより醸し出された、鬱蒼とした森林を髣髴させる雰囲気。
第3楽章トリオ部分の懐かしさを感じた、澄み切ったオーボエの響き。
終楽章の情熱的で執拗なまでに繰り返し奏される凱歌。
感動のあまり、生まれて初めて聴いたばかりの全4楽章を、帰りの電車の中で繰り返し口ずさんでいた(つもり)のですから…。
しかしこの時の感動があまりに大きかったために、その後様々な演奏を聴きましたが、いずれにも満足することはできませんでした。
先年、C.ディヴィスがロンドン交響楽団を指揮して、シベリウスの交響曲全曲と主要な交響詩を録音したことを知りました。
彼は1970年代にもボストン交響楽団と全集を録音していました。
その中でも2番は結構評価の高い演奏でしたが、渡辺氏の演奏で感じた抒情性には乏しく思え、好きなディスクとは言えませんでした。
ただ終楽章だけは、力強く雄々しい演奏との印象を抱いて、何度も聴きかえしてはいましたが…。
新録音では、1〜3楽章は淡々として地味な演奏ですが、嘗てTVで放映されていた『まんが・日本昔噺』の語りのように、訥々とした中にも味わいの深さが感じられました。
これは、同じコンビによる『4つの伝説曲』にも抱いた印象です。
圧巻は終楽章!ボストンとの演奏で雄々しく力強く感じていた低弦の響きは、新しい録音(或いはCD)では、一音一音が強調されて刻まれていることが、鮮明に聴き取れます。
それは恰も、吹き荒ぶ烈風の中、ロシアの圧政下から自由を勝ち取ったフィンランド国民の凱歌を思わせるような、力強い感動的な演奏でした。
全4楽章が、フィンランドの歴史を描いた壮大な叙事詩のような強い印象を受けたディスクでした。
ディヴィス/ロンドン響の演奏を“叙事詩”に譬えるならば、遥か40年前に体験した一期一会のシベリウスは“抒情詩”だったのでしょうか。
叶うことならば、もう一度渡辺さんのその時の演奏を聴いてみたいなと願っています…。